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村上春樹「シドニー! 」

村上春樹「シドニー! 」
 意識的に避けていた村上春樹のシドニーオリンピック観戦記を読んだ。
 避けていたのは、まずは一般的にスポーツ観戦記に期待できないこと、まとわりつくメディアと魑魅魍魎が好きではない(東京2016は誘致失敗に万歳、東京2020は決まってしまったから仕方ない、自転車ロードレースでも見に行きたい)・・・。図書館でたまたまこれを見つけ、東京2020も決まってしまったし、村上春樹もマラソンやっているし、以前に読んだギリシャとトルコの旅行記「遠い太鼓」も面白かったし、と思い・・・。

 なるほど、さすがだ。
 冒頭に1996年のアトランタでの有森裕子と2000年6月の犬伏(男子マラソン)を置き、本編は9月11日から(開会式は15日)、そして10月1日の男子マラソンと閉会式のあと3日にシドニーをあとにする。エピローグに2000年10月時点の男子マラソン(惨敗)監督、犬伏インタビュー、最後に2000年11月のNYシティマラソンの後の有森裕子で締めくくる。
 1996年の有森は「自分を褒めてあげたい」の銅、2000年女子マラソンは高橋尚子の金、犬伏は途中棄権である。
 この前後の構成あるいは冒頭の有森と犬伏を読んだ時点では、けっこうシビアで暗いのかなと思ったが(だって有森はシドニーに出てないし、男子マラソンの犬伏なんて記憶にないです。申し訳ないけど)、本編に入ると村上らしいウィットにに富んだアイロニーで思わず笑いながら読み進む。シドニー滞在の3週間の間に、原稿作成のための大事なパソコンは盗難されるし、携帯電話はなくすし、1000キロドライブの途中でスピード違反の切符を切られたり、大変だったんだ。
 小気味よいエッセイの中で、オリンピックは退屈だとぼやきながらもオーストラリアの民族問題(アボリジニー)やその他のまじめな話を織り込み、400ページ以上の大部を飽きさせずに読ませる。アボリジニー出身のキャシー・フリーマンが400メートル走で優勝したあとの異様な様子はもちろんけっして日本ではTV放映されなかったであろう(少なくともぼくは見てない)マイナーな競技の順位決定戦まで、村上春樹が筆を執ると意味があるように見えるのはさすがだ。

 こういう視点での観戦記は大変面白いが、残念ながら村上春樹はシドニーで長期の現地取材には飽き飽きしたようで、その後のオリンピックでの記録はない。

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