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吉本隆明「夏目漱石を読む」

吉本隆明「夏目漱石を読む」
 3月16日、吉本隆明が逝去した。あまりニュースにならなかったのは、昔「共同幻想論」で苦労した世代にとっては少し哀しい。AMAZONで検索したら「共同幻想論」は単行本はもちろん文庫も絶版なのでびっくり。そういう時代なのだ。といってもぼくも「共同幻想論」以外は2年前に「全マンガ論」を読んだだけで、昨今は難解な思想家というよりは、吉本ばななのお父さんという印象が強い(この親子関係については河合隼雄と吉本ばななの対談集「なるほどの対話」で河合先生がしつこく迫っている)。

 難解な文章の象徴として小林秀雄と並び称せられた吉本隆明も話言葉で語れば平易になるという意味で「夏目漱石を読む」はその平易な語り口に驚く。元になった講演は1990年から93年までに4回行われた。期間を置いた講演であるため、内容が重複している部分も目立つが、それだけに吉本の考えが明確になっており理解を助ける。

 漱石の評論は、その昔、江藤淳「漱石とその時代」ほかいくつか読んだが中身は全く記憶にない。本書は取り上げた著作のあらすじや参考文献の考え方なども説明してくれるので、そういえばそんな話だった程度に思い浮かべることができるが、それでも「道草」「彼岸過迄」あたりは全く記憶にない。
 主なテーマは「漱石の書く三角関係は、西洋の文学のような不倫小説、姦通小説になぜならないのか」「男二人はいつも親友か兄弟などきわめて近い間柄なのはなぜか」というもの。内容的には多くの説のなかで、吉本は精神病(パラノイア)と幼少時の境遇による漱石の資質に重きを置く。

 最初に「猫」と「坊ちゃん」に触れたのちにメインテーマとなる「三四郎」「それから」「門」「彼岸過迄」「行人」「こころ」の三角関係に触れ、参考文献として「道草」「硝子戸の中」そして漱石夫人による「漱石の思い出」をとりあげ、「明暗」ではじめて作者を登場人物に反映しない漱石の完成形を語る。
 毀誉褒貶激しい吉本隆明も、この著作を読むかぎり至極まっとうな評論家。長編の未完であったため、「明暗」が未読のままなのだが、読んでみようかという気にさせる。

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