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沢木耕太郎「凍」

 先日NHKハイビジョン特集「白夜の大岩壁に挑む~クライマー山野井夫妻~」で、その後の彼らが2007年夏にグリーンランドの大岩壁を登るドキュメントを見た。
 NHKらしく金と時間をかけて、夫妻とも手足の指がほとんど残っていないが、彼らの普段の生活やトレーニング、登攀器具の改造などを紹介していた。
 グリーンランドの岸壁でも3人(夫妻ともう一人。もちろん他に撮影スタッフがいる)の動きや、トップやセカンドの役割、ロープをどのように使い、どのように荷揚げをするのかなど門外漢でもわかりやすかった。
(山野井さんの時計は当然のようにSUUNTO VECTORでした・・・)

 その彼らは2002年、ヒマラヤ・ギャチュンカン(7,985m/7,952m 異説あり)で泰史が単独登頂に成功したあとの下降時に岸壁で雪崩の直撃に遭う。この事故で夫妻はかなりの数の手足の指を凍傷で失い、以前の事故ですでにかなりの数の手足の指がなかった妻・妙子はわずかに足の指2本となってしまう。この生還劇とその後の彼らの復活の話は、岩や雪とは無縁のぼくでもさわり程度は知っていた。
沢木耕太郎「凍」

 というわけでその詳細を知りたくて、沢木耕太郎「凍(とう)」を読んだ。「凍」は凍傷、凍てつく、であり音としては「闘」である。まるでフィクションのような細かい描写は綿密な取材と構成力の賜物だろう。ノンフィクション作家らしい。

 泰史がギャチュンカンの興味を持ち、出発するシーンから、時代は彼と彼女の生い立ちと山歴の紹介となり、やがてカトマンズへ、それから登頂、事故、脱出、手術、その後となる。
 生い立ちを読むと彼ら二人がやはり天性のクライマーであったことがわかる。ことに凄いのは妻・妙子であり、会計をはじめとした実務能力、気配り、そして度胸、これらだけでも十分にキャリアウーマンになれるだけの能力を持つ。TVで初めて51歳になる泰史より9つ上の姉さん女房を見たときは、どうしてこのふたりは結婚したのだろうかと思ったが、なるほどこの二人だから結婚したのだなと思えた。
 凍傷で指を切る手術は、すでに壊死しているから関係ないかと思ったが、生きている部分の手術もするのでもの凄い苦痛を伴うようだ。しかし妙子は最初の遭難での手術でも泣き言ひとつ言わず、同じ病院で小指を詰めて泣き叫んだヤクザや同じ凍傷で手術をした男のクライマーが見習いたいと見舞いに来たという嘘のような話まである。

 二人のそのときどきの心情は語られるが、ノンフィクションらしく劇的な書き方はけっしてせず、淡々とストーリーが進んでいく。それは雪崩直撃という惨劇でも泰史はもちろん妙子もけっしてパニックに陥らずに厳しいなかで冷静に手段を選択していった彼らの実力と気持ちの反映でもあろう。
 グリーンランドの登攀時の彼らの能力は最盛期の6割程度まで回復しているとのことだが、泰史42歳はともかく、妙子は51歳である。恐るべし。


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