「日本の山々」塚本閤治作品集2
古本を購入していると時々掘り出し物にぶつかる。
塚本閤治作品集の1となる「日本の山々」はコースガイド・記録に近いものであった。
同じ題名「日本の山々」塚本閤治作品集2はより上質な記録写真集である。1よりもかなり良い。
昭和25年刊行で扉の上高地からの穂高のみが天然色であとはモノクロである。
前半は「写真紀行」。これも前作同様バラエティに富む。
・奥秩父の山と渓、残雪期の飯豊山、黒部川下の廊下、鹿島槍と爺ヶ岳、前穂高北尾根と奥叉白谷、美ヶ原、南アルプスの南端、宝剣岳中御所谷遡行、尾瀬と会津駒ヶ岳、春の乗鞍岳。
山名を見ただけでバラエティに富む内容だと確信できる。
まだダムなど一切ない頃の黒部川の貴重な写真や飯豊山のマタギとのクマ狩など貴重な記録もある。剣沢の写真のコメントに「上流には落差400米と云われる秘められたる巨瀑”剣の大滝”が在る」とあった。もちろんまだ剣の大滝を誰も見たことがない時代である。
また、あの猪谷千春(1956年のコルティナダンペッツォ冬季五輪・スキー回転でトニー・ザイラーに惜しくも及ばず銀。現IOC副会長)の少年時代の写真があった。ちなみに父の六合雄はこの本に乗鞍岳のエッセイを書いている。
後半は写真紀行に収録した山に関するエッセイを当時の一流のアルピニストが寄せている。詳細は目次画像を参照されたい。執筆順に、田部重治(1884-1972,66歳)、武田久吉(1883-1972,67歳)、冠松次郎(1883-1970,67歳)、槇有恒(1894-1989,56歳)、松方三郎(1899-1973,51歳)、村井米子、黒田正夫、藤木九三(1887-1970,63歳)、中西悟堂(1895-1984,55歳)、猪谷六合雄(1890-1986,60歳)となる。( )内は生没年と刊行当時の年齢。備忘です。 村井と黒田は知らなかったので調べてみたら以下のとおり。
村井米子は「食道楽」で明治期に名をはせたジャーナリスト村井弦斎の長女で女性登山家第一号といわれる人。女性ならでは感性で展望と草原の美ヶ原を時には上田敏訳の詩も添えて描写している。
黒田正夫は大正から昭和初期に南ア・聖岳に初子夫人との登山の記録があるが、ここに収められた「遠山川西澤」はそのときの模様であり、地域・時代風俗から中村清太郎の紀行を読んでいる気分になった。
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