杉本誠「山の写真と写真家たち」
杉本誠「山の写真と写真家たち もうひとつの日本登山史」を読んだ。
非常に興味深く、面白く読んだ。1985年刊行で定価4,800円のこの本は、すでに廃刊で古書市場では1万円では入手できない。そんなに貴重な本なのかなと思いながら頁をめくる。前半はこの本で取り扱った写真家の代表作が並ぶ。写真点数だけなら、今でも新刊で入手できる「山を愛する写真家たち―日本山岳写真の系譜」のほうが多いくらいだし、扱った写真家の数も多い。この本も巻頭には杉本誠による解説文が掲載されているが・・・。
扱った写真家は目次写真のとおり。その後に以下のような解説文が入る。時代ごとに一人ひとりの経歴と逸話をまとめている。
この「山岳写真家列伝」ともいえる解説文が非常に面白かった。面白かったのはごく一部を除いて個々の写真家についてよく知らなかった自分の無知によるものも大きいのだが、この「列伝」を読んだあとに前半の写真を見直すと見方が変る。ぼくは前段の写真はもちろんだが、同時に「山を愛する写真家たち―日本山岳写真の系譜」も横に置きながら、また時には、数少ない個別の写真集を眺めながら読みすすんだ。
・初期の山岳写真史は山岳史そのもの。日本山岳会設立に至る当時の情熱は小島烏水の「アルピニストの手記」を読んだ時のように蘇ってきた。
・小島らの手作り超豪華本「高山渓谷」を飾る中村清太郎、茨木猪之吉の絵。題字は横山大観・・。
・先日読んだばかりの「北アルプス黎明」の解説とほぼ同じエピソード、すなわちウェストンの写真を撮影した日本人写真家 T.HORIさがしが穂苅三寿雄の稿にあった・・・、あ、あちらの解説も杉本さんだ。
・今まで名前だけでよくわからなかった「日本山岳写真集団」「白い峰」などの歩みと位置づけがわかった。単に古本が安かったので入手したエーデルワイスシリーズ写真集「わが心の山」が日本山岳写真集団の初仕事だったとは・・・。
・もちろん「雪線」をめぐる戦火と戦争の逸話もある。
・山本和雄に「10年穂高を撮り続けろ」と冷池小屋でデビュー前の田淵行男がアドバイスした、なんている話は少なくとも手元にある山本和雄「槍・穂高讃歌」には書いていない。
もともとこの本は昭和38年からの「岳人」連載をもとにしている。発売前日に早刷りを読んだ武田久吉博士から「3箇所に誤りがある」と指摘されるところから毎週のように武田邸か通いが始まる。日本で最初の山岳写真家探しも抜群の記憶力を持つ武田久吉博士の言葉から・・・。
時代は小島烏水、田部重治、高野鷹蔵、中村清太郎、三枝威之介(五龍岳の漢字命名者)など草創期の山を知る人々が存命だった頃、杉本氏は精力的にインタビューを続けてこの作品を仕上げたことが端々から感じられる力作である。
あらためて古書の価格に思い当たる・・・。2万円近いので諦めました・・。
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