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「氷壁」原作とNHKドラマ

井上靖「氷壁」NHK「氷壁」 NHKドラマ「氷壁」を再放送で見た。井上靖の「氷壁」を「原案」として現代にリニューアルしたものであるが、小説などの原作を映像化したものの中では、近年まれに見る駄作だろう。ただのドラマとしてみればそれなりに面白いが、井上靖の「氷壁」を前面に押し出した作品としては駄作といえる。もっとも1958年に山本富士子主演で公開された映画は見たことがない。まあ、同じ小説の映画化なら「春の雪」のほうがよっぽどまし。
 
 NHK版は「ナイロン・ザイル事件」が「カラビナ」に替わったことで、発表前から関係者(井上靖氏の遺族とナイロンザイル事件に関わった人たち)と揉めていたようだ。井上靖「原作」、となっていたものを「原案」に替えたのもそのせいのようだ。こちらとか。
 で、一番の問題は、小坂(NHKでは北澤)が滑落した原因が原作ではナイロンザイルの切断なのに(実在の事件ではこのあとにザイルの性能基準などの強化が図られている)、自分が負傷したためにパートナーである奥寺(原作では魚津)を生かすために自らカラビナをはずした、というふうに大きく変わってしまったことだ。
 さらにラストも原作では滝谷を単独登攀中に落石にあい遭難死する魚津が元気にK2を登ってしまう(ロケ地はニュージーランド)。
 主人公二人の死因を変えてしまうとは、しかも魚津は生きている!(もっともラストはK2の登るシーンで終わるので登頂が成功するのかどうかは不明。帰りに落石に遭うかも?)

 物語を現代に変えたのでいまさらナイロンザイル事件にすることはできないだろうし、かといって少なくとも現時点では強度に問題がないカラビナを壊してしまうこともできなかったのだろう。となるとカラビナは正常であり、操作ミスか自殺ということになってしまう。要するに「氷壁」の舞台を現代に設定したためになるべくしてなったストーリーということになる。
 もうひとつ、北澤の小坂の妹に対する態度が原作とは全然違う。NHK版では奥寺と八代美那子(これは原作と同名)の関係が深すぎてしまい、必然的に北澤(小坂)の妹への奥寺(魚津)の態度が冷たい。落石多発地帯で前へ進めば徳沢で待つ小坂の妹のもと、後退すれば美那子のもとに引き返すことになると信じた魚津という構図はNHK版ではとれなくなる。

 原作の小坂の妹にもモデルがいたようでこれはこちら。魚津の遭難時の手帖メモのモデルが北鎌尾根遭難の松濤明のメモであることは良く知られているが、松濤が北鎌で遭難していたときに西穂高まで彼女は来て待っていたとのことです。

・・・と、偉そうに書きましたが、実は原作をついさっき読み終わったところです。NHK版があまりにもひどかったので原作はどういう話なんだろうと読んでみたわけです。まあ、NHKの駄作のおかげで長年気にはなっていた「ナイロンザイル事件」がわかったので良しとします。
 魚津の上司の常盤がいい味を出していました。
 NHKドラマを見て、あれが不朽の名作「氷壁」とは思わぬこと。

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