田淵行男「山岳寫眞傑作集」
田淵行男のデビュー作品集である「山岳寫眞傑作集」(アサヒカメラ臨時増刊 1951年)を入手した。
本文写真100ページに満たないB5サイズの古びた本は、郵便の封を開いた時に意外と小さいな、という印象があった。
浦松佐美太郎の「八ヶ岳の作品が、他を引離して傑出している」との序文が、八ヶ岳の作品をあまり見たことがなく、常念山脈や穂高を中心としたものを中心に見てきたぼくには違和感があった。
というやや不可思議な気分でページを開いた。
冒頭は八ヶ岳である。おお、見たことがある。「主峰赤岳」の迫力ある写真だ。八ヶ岳のいくつかの写真のあとに常念からの槍穂の写真となり、いつもの田淵を垣間見る思いにほっとして、ページをめくる。ああ、この作品もこれに入っていたのか、というような見覚えのある代表作が並ぶ。(左の写真は前穂高からの奥穂高。手前がこの本、後ろは「尾根路II」に掲載のもの。大きさは違うが迫力は変らない)
この写真集で初めて見たのは奥秩父や鳳凰、大菩薩、あるいは白根、谷川岳や木曽駒など北アルプス以外の作品が多い。どの作品もその後の田淵行男の作品とあまり変らない構図であるが、初めて見る多くの作品はモノクロの特性を生かしたすばらしいものばかりであり、正直、圧倒された。
田淵の作品集を見始めるまではあまりモノクロは好きではなかったが、特にこの作品集ではモノクロの良さが前面に出ている気がする。
けっこうな興奮状態で本文の写真を見終わり、昭和26年にこれを見た人がみんなびっくりしたのも無理はないと思った。
さて、末尾にはエッセイが1篇と山の撮影案内がある。撮影案内は八ヶ岳、常念山脈、剣岳、穂高、後立山、奥秩父、北岳、谷川岳にわたり、当時の交通や小屋の状況を交えながら撮影ポイントと撮影時の注意を田淵が記載している。これもなかなか面白い読み物で、光線や構図の好みなどは遺作「山は魔術師」と変ることがない。
古書でもあまり見かけないのでネットで思わず購入したが、大変良かった。
難を言えば、当時の紙質と印刷技術の元、とても小さいフォントでの写真の解説文が老眼にはつらかった。
田淵行男関連著作一覧
【余談】
この本を5000円で購入した、と言ったら家人にバカにされたが、刊行当時(昭和26年)の280円とは今ならどのくらいなのだろう・・・、と当時の物価を調べてみた。
白米10kg | 大工の手間賃 | 教員の初任給 | そば |
445円 | 180円 | 5050円 | 15円 |
さて現在はというと大工の手間賃なんてわからない。米はスーパーで5キロで2000円前後、初任給は20万円程度か、そばは300円?400円?。ということで10倍から20倍くらいになろうか?
となると当時の280円は現在では2800円から5600円くらいか。となると中古で5000円というのはべらぼうに高いというわけでもなさそうだ、と言い訳しておく。
【さらに余談】
この本はアサヒカメラの臨時増刊なので巻末にカメラ関係の広告が出ている。
ぼくも学生の頃に使っていたラッキーの引伸機が16,500円。美光堂製作所のスーパーフレックスというブローニー版のカメラはA型が23,500円、B型が19,500円。
上の物価と比べるともの凄い高価だったことがわかる。
ちなみに小西六寫眞工業株式会社の広告もあったが・・・それすら今はない。
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