田淵行男 「山の季節」新編&本編
田淵行男「新編 山の季節」と「山の季節」を読んだ。
新編の方は本編の「山の季節」を再編集して文庫化したものである。
田淵行男の写真集で新刊で入手できるものはこの1冊しかないが、新編は本編とどの程度の違いがあるのだろうか。
まず大きさがある。画像でごらんになるとおりの差がある。「山の季節」はあとがきで田淵が書いているとおり、前作の「山の時刻」よりも縦を2センチほど長くし、より構成しやすいようにジャストA4サイズになっている。
写真の枚数は数えてはいないが概ね2/3くらいのようだ。落ち葉とか雑木林とかいった柔らかめの写真が抜かれているので全般として「山岳!」という堅さが新編の方が強い。大きなテーマも新編ではまとめるか省略されているものがある。
文章も本編に写真とともにある詩的なものと巻末にある散文が入り混じっている。文章の量は本編の半分以下に思える。
しかし、写真の印刷は新編の方がかなり良い。
大きさの違いもあるのだろうが、昭和44年刊行当時の印刷技術の問題なのか、モノクロは問題ないがカラーは全般に解像度が悪く、写真によってはボケているように見える。新編の方が色も鮮やかである。一方、モノクロは新編の方はコントラストが強すぎる印象があり、本編の方が好ましい。いずれにしてもこれが原版の色なのかどうかはわかるはずもない・・・。
カラー印刷の不鮮明さはこの頃の田淵の他の写真集にも見られるので印刷技術の問題だったのかもしれない。昭和50年代以降の作品では不鮮明さは感じなかった。
また、これも本編のあとがきに書かれているが、本編ではカラーとモノクロのページの隣接が印刷上問題になったようで、掲載される写真の順番が田淵の意図どおりになっていないものがある。これは本編を読んでいたときに、なんでこの写真がさっきのページの続きになくて、ここにあるんだろうと不思議に思ったが、印刷技術の問題だとあとがきを読んでわかった。
新編ではトップページを飾るカタクリとヒメギフチョウの写真はモノクロだったが、新編ではカラーになっている(よく見ると写真そのものが違う)。このあたりも、本編刊行当時はカラーが許されない技術的な事情があったのであろう。
というようなのが本編と新編の差であるが、新編でも田淵行男の世界は十分味わえる。
本編は刊行価格が3,200円。古本だとこの数倍から10倍以上する。新編は838円(税別)。刊行当時の価格と比較してもこれほどの差はない。悪くて半分、2/3くらいは意味があると思う。
新編には田淵行男に師事した水越武氏のあとがきがある。
そうはいっても田淵行男の写真集は、彼のエッセイもとても良いので、図書館などで読んで見ることを推奨します(注)。
(注)ぼくの住むT市の図書館では「田淵行男」で検索すると20冊以上がヒットしたが、山の三部作の「山の意匠」がなかった。近隣の図書館はどうかと思いH市、I市と勤務先のC区の図書館の蔵書をネットで検索したら、ほとんどない。F市が16件ヒットし、「山の意匠」もあった(けど、他はあまりない)。T市の図書館はたしかに以前住んでいた埼玉に近いK市よりもかなり立派・・(だけど4月からやっとネット検索・予約ができる)。ちなみに国会図書館で検索したら重複含め76件ヒットした。ま、当然か。
【訂正】「新編 山の季節」以外にも岩波書店刊行の日本の写真家 11「田淵行男」が復刊していたので、これも新刊で購入できます。
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